プロが作るようなトロトロオムライスの作り方

何年ぐらい前からでしょうか、時々テレビ番組で、プルンプルンの楕円形のオムレツをチキンライスの上に乗せてから真ん中に切り目を入れると、中の半熟部分がとろけ出すといったオムライスを見るようになりました。
私も、こんなオムライスが作りたくて、何度か挑戦しました。
しかし、どうがんばっても、なかなか理想的な半熟状態にはなりません。
内部が、フワフワトロトロのオムレツを作るのが、思いのほか難しい。
少し固まりすぎてしまって、切っても中身がとろっと出てこなかったり、とにかく卵をちょうど良い半熟状態にするのが難しい。

要は、完璧な「プレーンオムレツ」を作ることが出来るか出来ないかです。
これさえ出来れば、「楕円形のプレーンオムレツをライスの上に乗せてから真ん中に切れ目を入れて、中の半熟な部分が「トローッ!」ととろけ出すといったオムライス」が出来ます。
 
もう35年になるでしょうか、一時期美味しいオムレツに凝って、あちこちのレストランにオムレツを食べに行ったことを思い出します。
私がカウンターに座るや、お店の主から「今日もオムレツ?」って言われるほど通いました。
カウンターの向こうで、フライパンを優雅に操る店のオヤジを見ていて、「完璧なプレーンオムレツ」となると、プロでも結構難しいのかも、と生意気にも感じたものです。


ただ半熟というのではなく、オムレツ内部の卵がしっかりと泡立っていて、なおかつ半熟なのですね。 
こういうオムレツは当然の結果として「丸く、高く、ふっくらと盛り上がっていて、プルンプルン」しています。 
オムレツの内部がただ半熟というぐらいならば、一人前のちゃんとしたプロならば誰でも出来るかも知れませんが、泡の立ち方まで完璧となると、かなりのレベルのプロじゃないと無理なのかな、というのが当時私が持った印象です。
ま、ここまで行かなくても「納得できるレベルのプレーンオムレツ」を作れるようにならないと、「とろとろオムライス」は無理だということがよく分かりました。


話は変わりますが、こんな話し、ご存知ですか?
スペインに伝わっている昔話です。
スペインの王様が、何人ものお供をつれて田舎を散策している時、王様は急にお腹が減ったようで、「なにか食べたい、至急用意しろ」とお供に命じました。 
なんにもないスペインの田舎ですので、困り果てたお供は近くの家に飛び込み、家の人に「王様が急になにか食べたいと言っている。 なんでもいいから至急なにか料理してくれ」と頼み込んだのです。 
家の人は、すぐに卵を溶き、それをフライパンに流し込み、固まらないようにすばやくかき混ぜ、形を整えてお皿に盛り付けて、王様の前に出しました。
家の人の、あまりの手際の良さに感心した王様は「Quel homme leste !(ケロムレスト)」と叫んだのだそうです。 
「なんて素早い男だ」といった意味です。 
この「hommelest (オムレスト)」がオムレツの語源だという説があります。


オムレツを作る手順を説明します。
一人前の場合、卵を2個用意して下さい。 
① この卵をボールに割りほぐして、お塩と胡椒を加えて混ぜます。
② 次に、コンロの上で温めたフライパンにバターをいれ溶かします。
③ バターが溶けたら、フライパンに、すでに用意してある溶いた卵を一気に入れ、卵に空気がたっぷりと含まれるように大きく混ぜ、卵が半熟状になったら、卵がこれ以上固まらないようにするため、フライパンを火から離したり、近づけたり調節しながら、フライパンの取っての向い側の丸みを利用しながら形を整え、お皿に移します。


ポイントは、フライパンの温度が上がり過ぎないように、かといって下がり過ぎないように、フライパンを火から離したり近づけたりしながら、フライパンの温度をコントロールすること、そして卵にたっぷりと空気を含ませること、この二つです。


言葉で説明すると、たったこれだけのことなのですが、問題は「卵の状態を見ながら、卵に伝わる温度を敏感に感じながら微妙にフライパンの温度をコントロールし、しかも手早く作業ができる感性と訓練度」です。
失敗は成功の母、練習するしかありません。


最近は、自分で料理するのが面倒だとかいって、外食する人が沢山います。 
しかし本当は、自分と自分の家族の健康を考えたら、毎日の家庭における「正しい食生活」こそが基本です。


ですから私の家では、「プロなればこその技、味」これを楽しむために外食をすると決めています。 
自分の家で作れる料理を、わざわざお店に行って、お金まで払って食べるのは「ただの手抜き」と考えているからです。 
だからと言って、我が家の家庭料理のレベルを低く設定する気持ちなど、もとよりありません。 
つまり「家庭料理の役割」と「プロの料理の役割」は違うと考える方が、よりバランスの取れた、しかも変化もある「食生活」を送ることが出来るのではないでしょうか。


今回の「プロが作るようなトロトロオムライス」、そこにはレベルの高いオムレツを作れるかどうかという高いハードルがあります。 
普通に考えるなら、これは「プロの料理人の領域」に属する仕事だと思います。 
自分で作るのは、普通の卵焼きでくるまれた「オムライス」、これでよいのだと思います。
家族の健康を支える「我が家の味」、これが一番大切ですし、これが基本です。


一見、普通のオムライスなのだけれども、一箇所だけでいいから「我が家特製」の部分がある。 
結構このことが大切なのだと思います。 
家庭料理は毎日のことです。 
外食は「タマ」のことです。 
小さな特徴の裏にある大きな愛情、小さなサプライズに隠れている家族に対する強い思い、大人になって思い出す「お袋の味」の隠し味はこんなところにあるのではないでしょうか。
のは、実はこうしたことではないでしょうか。